朗文堂 アダナ・プレス倶楽部 こんな時代だから、活版印刷機を創ってます。

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ニュース No.036 【アダナ・プレス倶楽部便り】

活版凸凹フェスタ2008 会場レポート 44

特別企画展示「サンキさんの残したカタチ」凹凸舎

「活版凸凹フェスタ」の記念すべき第一回目の特別企画として、「印刷の街 ―新宿―」「写真の町 ―四谷―」という会場にもふさわしく、また、現在、その境遇において多くの共通点を感じられる活字版印刷とアナログ写真をテーマに、写真家であり、みずからも「凹凸舎」としてカッパンをおこなっている、大沼ショージさんによる企画展示「サンキさんの残したカタチ」を開催いたしました。

 写真と実物による立体的な展示とともに、会場では連日、大沼さん本人による「増殖展示/ライブ・インスタレーション」も展開され、毎日あたらしい展示物(活字組版とその印刷物)が増殖し、会期終了とともにこの展示の集大成として、一冊の書物「サンキさんの残したかたち」も完成いたしました。

大沼ショージ(凹凸舎)

1970 年、横須賀市生まれ。鎌倉の遺跡発掘調査団員を経て、フリーのカメラマンに。

「サンキ印刷」より譲り受けたカッパン機材をもちいて「凹凸舎」を主宰。

大沼ショージ

大沼ショージ

大沼ショージ

大沼ショージ

大沼ショージ

「サンキさんの残したカタチ」によせて 

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私が墨田区のサンキ印刷を初めて訪ねたのは二〇〇一年の冬のこと。印刷所はすでに廃業されており、取り壊しが間近に迫っていました。

 印刷所に一歩入った途端に、息が詰まるほどのモノの多さに圧倒されました。当時、活版に触れ始めたばかりの私には、活版印刷にはこんなにも沢山のモノが必要なのか !? と、驚いたのを覚えています。

 長年使い込まれた、手垢であめ色になった道具。黒光りしている重厚な金属の塊。繰り返し組み直されエッジが丸まってしまった活字。引き出しにきちんと収まっている手が切れてしまいそうに鋭く美しい罫……。どれもこれもが用の美に満ち、うっとりしました。

 サンキさんはそれらを全て処分するといいます。しかし、長い間連れ添った道具達をおいそれとは捨てられるわけもなく、壁には、

「モノを大切にするという事は愛着を持つ事

 使わずに忘れ去ったモノに愛着が持てるはずがない」

と、記されていました。

 この言葉を奥歯で噛み締めて、決着をつけようとしているサンキさんの姿と、モノの美しさを放っておくことができず、それらを受け入れる事になり、凹凸舎は立ち上がったのです。

 今回の展示を、一番に見ていただきたかったサンキさんは、二〇〇六年、享年七三歳で他界されましたが、残されたモノ達に宿った、職人山崎眞男の魂は、これから先も黒く鈍く光を放ち続ける事でしょう。

 いずれ私にも死が訪れますし、活字という物事もいつまで続くか分かりませんが、今ここにあったという事実を残したく、この様なカタチにしました。ほんの一部ですが、皆様にお見せ出来たことを嬉しく思うと同時に、これから先へと繋がるキッカケとなれば幸いです。

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二〇〇八年 五月二日

サンキさんこと山崎眞男さんに捧げます。

凹凸舎 舎主 大沼ショージ

Robundo Publishing Inc. Tokyo JAPAN