{新宿餘談}「片」の字問題も片付いていないのに、こんどは「塩」の字が

20160331161026161_0001片塩の印鑑2[1]花筏 2011年12月31日という妙な日に
新・文字百景*003 いろいろ困っています「片」の字
をしるしたことがあった。

2011年はあの大地震の年。同時に「住民基本台帳カード 住基カード」の普及期でもあった。「住基カード」はいまのところ、事業者以外はあまり取得しないようであるが、消費税などの電子納税には、通称「電子政府書体」をもちいている住基カードが必要で、カタシオが通常しるしている「片」の字は、図版のように五画であるが、住基カードではOCRの都合上らしいが、字画は四画でなければならないことをしるした。

ところが最近、中国や台湾・香港の友人・知人が増えるにつれて、「塩」の字も大いに問題になってきた。やつがれは字体と字種問題にはあまり踏み込まないようにしているが、各国・各地での「片塩」の表記は以下のようになる。

日本 常用漢字    「片塩 U+5865」
中国 簡体字        「片盐 U+76D0」
台湾・香港 繁体字  「片鹽 U+5869」

中国の友人からのメールの「片盐」だと、なにか頭髪を抜かれたようで上部がさびしい。台湾の繁体字だと頭が重くなるし、なによりもやつがれは字書無しでは書けない。
ここで面白いのは、台湾・香港などで使用する繁体字の「鹽」は、日中ともにほとんど読み書きができないレベルまで使用が減っているが、異体字(日本は旧漢字とも)として温存していることである。

かたしお カタシオ 片塩 片盐 をつなぐのは 片鹽 なのである。ヤレヤレである。
片鹽二朗

────────── この問題についてアドビ システムズ  山本太郎氏よりのコメント紹介

現在の文字コードの標準的な体系は、ISO/IEC 10646及びそれと等価のUnicodeが広く普及しています。そこでは、その規格のAnnex S.に定義されている包摂規準に従って、ある文字とある文字が別の文字であるか、同じ文字であるかを判断しています。
ISO/IEC 10646は基本的に一つの文字に一つのコードを割り当てる規格です。なので、通常、異体字等の微妙な形状の差異は文字コードでは指定できません。

ある文字と同じ文字とみなすことのできる文字の形状の微細な差異については、(1)タイプフェイス・デザインの差異としてフォントの実装によってその差異を再現するか、(2)互換漢字に登録することによって、その形状を指定可能にするか、あるいは、(3)字形選択子(VS)という特殊な文字コードを標準の文字コードに付加して特定の登録済みのIVD(漢字字形データベース)コレクション中の文字の特定形状を指定可能にするか。おおむねこれらの方法が用いられます。

(1)の方法は文字コードとは無関係の、フォントに依存した方法で、(2)の方法は種々の運用上の問題が指摘されており、最近ではあまり行われません。(3)の方法が、現在の主流の方法となりつつあります。ただし、これには、IVDコレクションをUnicode Consortiumに登録する必要があります。

しかし、塩、盐、鹽 の場合には、日本と中国と台湾(及び香港)がそれぞれに、それぞれの文字を国家の定めた規格として必要としている文字であり、それぞれ別々の文字として別々の文字コードが割り当てられています。
したがって、少なくともISO/IEC 10646(Unicode)に関わる限りは、それらの3つの文字は別個の文字として取り扱われ、混同が生じる問題はありません。

以上、「塩」の文字について私見まで。  山本太郎