五毒-蛙」タグアーカイブ

【もんともんじ】ちょっと不気味ながら目出度い瑞兆|蛙と招財進寳|端午の節句と鍾馗様の五毒退治

馴染みとなった中国料理店のレジの脇に、なにやら異様なものが置いてあった。
「小姐-ショウシャ・お嬢さん、これはなんですか」
「それは縁起ものよ、もう片づけるけど」
六月の初旬、小姐はそっけなく答えた。

よくみると丸〻と太った蛙で、足もとには吉語が刻まれた銅貨が積みかさなり、ご丁寧なことに銅貨を咥えており、そこには富貴の吉語「招財進寳」とあった。しかも全体も銅製とみられ、ずっしりと重かった。
小姐は知らんぷりなので、以下はいつもの通り『中国吉祥圖案』を繰ることにした。
[参考資料:『中国吉祥圖案』(台湾 北市、衆文図書公司、1991年02月]
『中国吉祥圖案』pp 640 にその資料「天中避邪 ── 鍾馗像上蝙蝠飛舞圖」を発見。
「古老の説話によると、五月五日、その正午の時刻は、天地の陰陽が交接するときにして端午節とされる。五月五日の五と、正午の午は、ともに Wu 3 であり同音同声である …… 」からはじまるその解説は難渋をきわめるが、できるだけ簡略に説明したい。

この五月五日の端午節の頃(旧暦)になると、蛇・蜥蜴 トカゲ・蠍 サソリ・蜈蚣 ムカデ・蛙 など「五毒」とされる「悪魔的害虫」がわき出てくるので、庶民は門内にこれらの侵入を防ぐために、門口に霊草とされる 菖蒲 ショウブと艾 ヨモギの葉を掲げる。菖蒲の葉は剣に似て、艾の葉は手のひらに似る。
これを合わせて「手のひらで剣を握り、悪魔をはらう。それで一家の一年は平安多福となる」そうである。

わが国の記紀神話、「八岐大蛇-やまたのおろち」を退治した素戔嗚尊-すさのおのみこと-伝承と似て、「鍾馗 ショウキ 伝説」も多々あるが、そのひとつ。
唐の玄宗皇帝が瘧 オコリ で高熱を発したとき、夢に「五毒」の小鬼が出てきて「われの名は虚耗なり」といって悪戯をしかけた。玄宗皇帝は激怒して、禁軍・近衛の兵士に「五毒」討伐を命じたがならなかった。
そこに巨漢の武将があらわれて快刀乱麻の勢いで小鬼をすっかり退治したので「汝は魔鬼か」と訊くと、「わが名は鍾馗なり」と答えた。それ以後皇帝は悪魔的鬼神としての鍾馗像を、空中に舞う吉祥図、蝙蝠-こうもり-とともに描かせて、端午節に掲げるならいとなった。
ちなみに中国で「蝙蝠-ヘンプク」が瑞兆とされるのは、蝙が遍く-あまねく-に、蝠が福に通じるので、「蝙蝠」は吉兆をもたらすめでたい吉祥図とされている。

こうして「鍾馗様」に征伐された五毒は、一転して瑞兆となり、とりわけ丸〻と肥え太った蛙は「招財進寳」をもたらす縁起の良い存在として描かれ、彫刻されるにいたったという。
わが国でもふた昔ほど前までは、五月の節句に菖蒲湯にはいり、門口には艾(蓬)の葉を括って吊るす習慣があった。また女子が誕生すると、桃の節句にお雛様、男子が誕生すると端午の節句に鍾馗様の兜などを贈る風習もあったが、いまはどうなのだろう。

【 YouTube 李玉萍(萍萍老師) 書法/春聯教學 金字「招財進寳」楷書 1 : 49 】

【 YouTube 王興華老師書法教學(疊字春聯)音が出ます 35:33 】


【 YouTube 李玉萍(萍萍老師) 書法/春聯教學 金字「招財進寳」楷書 1 : 49 】
【 YouTube 王興華老師書法教學(疊字春聯)35:33 】

台湾からの動画で、楷書筆法による「招財進寳」を再度紹介する。あわせて少し時間はながいが、行楷書による「疊字=畳字」、春聯の金字書法を紹介したい。最初に書かれるのは記号や絵ではなく、吉祥字の上位におかれる「如」である。「如意-ものごとが意のままになるふしぎな力」を含意している。楷書とは筆順が異なる字画があり、速度もずいぶん早く書かれている。
30分以上の長時間なので途中に飽きがくるが、興味ふかいのは後半、20分過ぎくらいからで、わが国の展覧会書道とはおよそ趣がことなる「畳字」のおもしろさを理解できる時間帯になる。

「春聯-シュンレン」とは、中国・台湾で(旧)正月を祝うために、門の両側や扉などに、赤い紙にめでたいもんじを書いて貼るもの。
「疊字=畳字」は、わが国では「踊り字・重ね字・畳字-じょうじ」などとされることが多く、上掲動画とはなんら関連のみられないことばになっている。残念ながら手許資料では明快な説明ができない。

もともと「畳-たたみ」はわが国での意読で、漢字音ではジョウ・チョウで、意は、かさなる、かさねる、薄く平らなものをかさねるである。したがって熟語に「畳韻-中国音韻でおなじ母音で終わる二字を連ねること。逍遥・連綿・窈窕など」、「畳重-ものをかさねる、またかさなる」、「重畳・稠畳-びっしりと重なりあうこと」などがある。もうしばらく、これを参考にしていただき、「畳字とは字をどんどん積みかさねること」と理解いただけたらうれしい。


吉 祥 如 意  順-したがう

【生意興隆通四海】
天 地 順
得心応手
四季皆宜
平歩星雲
一路栄華

【財源茂盛達三江】
人 情 順
吉星高照
広開財源
歩歩高昇
一帆風順

「畳字」を明快に説明できないお詫びに、この香港飲茶の店の壁に掛っていた「万事如意-順」を紹介したい。字面を眺めているだけで富貴になりそうな気分になる。ちなみに「歩歩高昇」は成句で「トントン拍子」ほどの意である。

[ 参考:NOTES ON TYPOGRAPHY【もんじ】吉祥もんじ 合体字|招財進寳ーしょうざいしんぽう