【字学】 ひとごと or たにんごと - NHK 放送文化研究所

他人事画像

「ひとごと (人事) 」 と 「 たにんごと (他人事) 」

NHK放送文化研究所

Q

「他人」に「事」と書く「他人事」について、「ひとごと」と「たにんごと」という二とおりの読み方・言い方を耳にします。放送での読み方などは、どうなっているのでしょうか。

A

まず、「他人事」「たにんごと」という表記(書き方)と言い方・読み方は、どちらも放送では原則として用いないことにしています。
「自分に関係ないこと」などを意味する場合の伝統的な言い方は「ひとごと(人事)」[ヒトゴト]とされ、放送でもこの語法を採っています。
表記は、「ひと事」または「ひとごと」です。  Χ  「他人事」「たにんごと」

 
<解 説>
ご指摘の「他人事」という用語は、近年「ひとごと」に加えて「たにんごと」という読みで使われることも多く、むしろ最近では一般に後者のほうを耳にすることが多いようです。
しかし、「自分には関係ないこと」「自分には利害関係のない他人(たにん)のこと」などを意味する場合の伝統的な語・ことばは「人事(ひとごと)」[ヒトゴト]とされ、多くの国語辞書が【ひとごと】「人事」を採っています。
また、これについて国内の主な新聞社や通信社も、「ひとごと」または「人ごと」の表記(表現)を認めているだけで、「たにんごと」「他人事」については認めていません。
このような状況の中で、NHKでも平成12年(2000年)2月に放送用語委員会でこの件について改めて審議しました。その結果、「タニンゴト」ということばは誤読から発生したもので、原則として使わない」ことにし、従来通り「表記は ◯ ひと事 Χ 他人事 読みは ◯ ヒトゴト Χ タニンゴト」と決めています。

この用語委員会の決定の理由や戦前の国語辞書を含めた辞書調査などによりますと、「他人事」「たにんごと」ということばが生まれた背景については、次のようなことが考えられます。
 《もともと「他人(たにん)のこと」を意味する語・ことばには「ひとごと」という言い方しかなく、この語に戦前の辞書は「人事」という漢字を主にあてていた。ところが「人事」は「じんじ」と区別できないので「他人事」という書き方が支持されるようになり、これを誤って読んだものが「たにんごと」である。》 

上記の背景を指摘したうえで、用語委員会は決定の理由を「このような背景から考えると、いたずらに類義語を増やすものとしても、このことばの使用は勧められない」と結んでいます。   なお、「他人」を「ひと」と読むのは表外音訓(常用漢字表にない読み)です。
 
(『NHK日本語発音アクセント辞典』P766、『NHK新用字用語辞典 第3版』P471、『NHKことばのハンドブック第2版』P172参照)
2005.12.12 (メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)