【艸木風信帖】合歓木、ハニーサックル、トロロアオイ ── 空中花壇花ざかり

《天候不順な昨今ではあるが、もう10年ほど、咲くときには咲いている合歓木-ねむのき》
五月の初旬、いつになくことしの東京は暑かった。
例年なら梅雨時に花をつける合歓木-ねむのき-が、なにか時期を間違えたのか、一輪、花をつけていた。もしかすると合歓木は眠い目をこすりながら、

「アレッ、開花時期を間違えたかな」とおもったらしい。夜になると葉と一緒にこうべをたれて、また眠っていた。
DSCN8730 DSCN8728 DSCN8731六月下旬、眠っていた合歓木が、吾が空中庭園の一隅で本格的に花をつけた。この木はここにきて10年ほどになるが、おおぶりとはいえ鉢植えであるから、高木にはなれない。それでも梅雨の曇天のもとで次〻と開花し、紅色の雄しべはほそい針のようにわれ、ここ数日愉しませてくれている。夜になると葉も花も眠ったようになる合歓木-ねむのき-、名前も雅味があるが、この細くて強靭な花も葉もよい。

《ハニーサックル、スイカズラ、忍冬、金銀花、Japanese Honeysuckle》
ノー学部が気まぐれに苗を買ってきて、円形の植木鉢だとスペースがないので、100円均一店で買ってきた長方形プラスチックごみ箱の底に、錐でいくつか穴をあけて植えた。花の名は「ハニーサックル」だという。活字結束用の麻紐を垂らしておいたら、蔓が巻きついて、陽当たりの良いところまで成長して開花した。少し水はけが悪いので、花のときが終わったら植えかえが必要かな。
DSCN8708 DSCN8714 DSCN8712ここのところ毎朝甘い香りがつよい。ロダンの椅子で一服しているとき、この芳香はエアコンの蔭になっている「ハニーサックル」からの香りだとわかった。花冠をみると、やつがれの幼年時代、戦後でまだあまい物が不足していた頃に「乳こぐさ」と呼んで、花の奥の密を吸うと甘い艸、「すいかずら」の一種だとわかった。そこで今朝試しに一輪だけ摘んで吸ってみたらとても甘かった。

花は楕円形で細長く、二個ずつ対をなして淡桃色の花をつけ、次第に黄色みを増していく。もともと「すいかずら」は東アジア原産らしい。山野に多いスイカズラ科のつる性低木。花冠の奥にみつがあり、吸うと甘いためにこの名があり、また冬でも枯れず、葉の一部が寒気を堪え忍んで残るために「忍冬-にんどう」ともいう。

この頃は空中花壇もにぎやかで、蜂や蝶もときおり戯れているが、ふしぎなことに「ハニーサックル」には近寄らない。「suck」とは、汁や蜜や母乳などを吸うという意であるのになぜだろうとみていた。
もともと「すいかずら」は、東アジア各国に自生し、北アメリカやヨーロッパでは観賞のために植えたものが野生化して、庭園や畑地の雑木となって嫌われているらしい。さしずめ北アメリカ原産で、大群落となる「アメリカ背高泡立ち艸」と似たもののようである。

それでも「すいかずら」は効用の多い植物で、葉を乾燥させたものはタンニンを含み、お茶の代用とされる。
生薬では花を金銀花と呼び、解熱、解毒薬として、また流行性感冒、おできの治療などにもちいられる。
茎および葉を忍冬-にんどう-という。忍冬も金銀花と同様に用いられるほか、利尿の効がある。さらに忍冬または金銀花水は、夏季には清涼飲料となるという。
また香りが強いこともあって、酒にいれて「忍冬酒」ともする。どうやら蜂や蝶は生薬の元となるような艸木はあまり好まないようである。
街角にカフェが増えた。競争も激しいようである。「ハニーサックル茶」、はたまた古風に「忍冬茶」のメニューはいかがだろう。スイーツの乱立よりは良いとおもうが、やはり素人考えか…… 。

《ウィリアム・モリス、メイ・モリス父子によって壁紙紋様としてのこされたハニーサックル》

ロンドン関連写真は 故 松本八郎氏提供

ケルムスコット・ハウス(モリス晩年の自宅兼工房)
半地下部分に活版印刷工房が移設・保管されている。
テムズ河畔に面し、邸宅前には元の馬車のUターン場所があり、現在は駐車場。
技芸者が軒をつらねたアッパーマルの路地はこのすぐ右手にある。
〔26 Upper Mall, Hammersmith, London W6 9TA〕

20180626184905_00001小型車も入れない細い路地「アッパーマル」で、19世紀末にプライベート・プレス運動が展開した。
左テムズ川との間にコブデン・サンダースンのダヴス・バインドリー(低く白い塗装)、右にエマリー・ウォーカーの写真凸版工房(サセックス・ハウス)、ケルムスコット・プレス(サセックス・コテッジ)のほか、皮革工房・レース編み工房・ステンドグラス工房などが軒を連ねていた。
この路地を出たすぐ右手におおきなケルムスコット・ハウスがある。
〔26 Upper Mall, Hammersmith, London W6 9TA〕
20180626184905_00002反対側からみたアッパーマルの路地。ランタンが下がっているのが多くの造形家が集まったコーヒーハウス「パブ・ダヴ」。店の床には石版石が流用されており、一部にはまだ絵柄がのこっている。店の背後はテムズ川に突きだしたテラスになっていて、川風に吹かれて味わう珈琲は絶品。
下戸にはわからないが、常温のビールも旨いらしい。低い白い壁の家屋が元ダヴス製本所とダヴス印刷所跡。

正面突き当たりに、19世紀世紀末に新造形運動を牽引したピットマン父子が経営していた小規模出版社「SIR ISAAC PITMAN & SONS, LTD」とプライベート・スクール(私塾)があったが、独逸軍のロケットが着弾して焼失し、現在はポケットパークになっている。
20180626184905_0000320180626194451_00001 20180626194451_00002ウイリアム・モリスとメイ・モリスがのこした壁紙紋様の「ハニーサックル」
この父子は葉が主体となるアカンサス紋様とならんで、蔓草のおもしろさと、可憐な花をつけるハニーサックルの作品をたくさん残した。下掲は市販の壁紙から。
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《ごてごてと 草花植ゑし 小庭かな : 正岡子規》
よくもまぁここまでごちゃごちゃと植えまくったものだと呆れることがある。大半はノー学部が勝手に植えている。やつがれはほとんど名も知らぬ艸木である。やつがれのお気に入りのスミレやタンポポは開花期をおえた。
ここにみる艸木は「ペチュニア、ホットリップス、ナスタチウム、ベコニア」だそうである。
DSCN7232この時期やつがれがこだわるのは、なんといっても「トロロアオイ」。この歌壇の女王である。
いっときは工事のため手入れができず、葉はわくらばになって、かろうじて一輪花をつけていたが、ここのところ元気を恢復して、次〻と花をつけ、種子もしっかりしたものになっている。
この花に関しては、あきもせで「花 筏 活版アラカルト」でさんざんしるしてきた。関心のある方はリンク先で。
それにしても妙な気候で、暑くなったり寒くなったりしていたが、いまは梅雨。記録に写真をのこそうとおもった。

DSCN8686 DSCN8696 DSCN8680【参考:活版アラカルト〔会員からの情報〕 英国 BBC News, テムズ川河床から<Doves Type>を発掘と報じた。ー 故 松本八郎のこと 】
【参考:花筏 年越しの古株からトロロアオイの花が咲きました