【艸木風信帖】暑中お見舞い申しあげそうろう 百日紅とあせ知らず

谷中天王寺 日吉洋人撮影連日の暑さが続いています。皆さんご壮健でいらっしゃいますか。

あす08月07日は「立秋」、暦のうえでは、あすからは「残暑」となる。だからここで「暑中お見舞い」を。
迷走・逆走台風12号につづき、今週は台風13号が週央あたりに日本列島上陸の予報が発表されている。しかも気象庁の予想進路では、日本列島のうえで、ひら仮名「く」の字を、下から描くようにして、急激に北東方向に向かうらしい。まったく筆順を無視していますな。
すでに猛暑と熱波でさんざんな目にあっているのに、もうご勘弁を、といいたいところだが、自然が相手では如何ともなしがたい。大過なく過ぎることを祈るばかりである。

台風13号進路予想 気象庁

《 夏を彩る さるすべり-百日紅 紫薇 》
冒頭に紹介した植物は「谷中の天王寺」にある「さるすべり-百日紅 紫薇」である。撮影は 日吉洋人 さん。

徳川幕府の庇護をうけ、宏大な寺域と、幸田露伴『五重塔』にしるされた巨塔を有していた天王寺に関しては、この活版アラカルトに【[イベント] メディア・ルネサンス 平野富二生誕170年祭-05 明治産業人掃苔会訪問予定地 戸塚文海塋域に吉田晩稼の書、三島 毅・石黒忠悳の撰文をみる】としてあらかたしるした。

「谷中の天王寺」は戊辰戦争に際して、徳川方の彰義隊の営所となって被弾し、太平洋戦争では伽藍の大部分を焼失するなど、数奇な歴史をへてきたが、その次第は、
天台宗 東京教区 護国山尊重院 天王寺】に詳しく記録されている。

花のすくないこの季節、淡黄色の大輪の花をつける「トロロアオイ」とならんで、文字どおり三ヶ月、百日ほどのあいだ、紅色の花をつけている「さるすべり 百日紅」に関しても、しばしば{活版アラカルト}にしるしてきた。
小社近辺の新宿御苑にそった道にも「さるすべり 百日紅」が植えられ、開花の盛りであるが、まだ植樹から数年ばかりで、樹皮の脱落もさほどみられず、「谷中の天王寺」のそれに及ぶべくも無い。

《 むか~し ばなし ── 郷里の祖母による DDT の散布と あせ知らずの塗布 》
ほんとうに昔のはなしである。生家が開業医で、ながらく土日も無く患者さんが押しかけていた。そのため週末は、兄・妹と三人そろって、田舎のバスにゆられて母の実家に行かされることがおおかった。
バスで小一時間(いまなら車で20分ほど)かけて到着すると、祖母か伯母のどちらかが玄関先で、
「まぁまぁ、みんな頭がシラミだらけ。DDT を噴霧するからね」
と、頭髪に向けてシュパシュパと、頭がまっ白になるまで DDT を散布された。続けて、
「ホラホラ、三人とも躰じゅうあせもだらけ。あせ知らず、あせ知らず」
と、今度は全裸にされて、パタパタとおしろいをたたくように、全身が DDT とあせ知らずでまっ白になるまで大騒ぎをしてから入室を許された。
つまり戦後まもなく、わが国が貧しかった時代のはなしである。

あせ知らずたまたま洗面所に「あせ知らず」が置かれていた。家人によると、アセモ(汗疹)予防に良く、香りも爽やかだということで、若者の人気アイテムだそうで使用をすすめられた。
この齢になって、湯上がりにパタパタと「ベビー・パウダー」もどうかな? とおもっていたので、恐る恐る使ってみた。たしかに爽快だし、むかしとおなじようなパッケージで、懐かしい香りがした。

おもえば DDT は、発癌性がうたがわれ、環境ホルモンとして機能するとされて随分批判されたが、「てんか粉 あせ知らず」は話題にもならず、ただただ黙って忘れられていたような気がする。
この狂気にみちた夏は、「あせ知らず」で乗りきることにしようとおもった次第。