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【イベント】 メディア・ルネサンス 平野富二生誕170年祭-10  特別展示 : 夏目漱石全集と東京築地活版製造所-内田百間「築地活版所十三号室」

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【作品名】 内田百間 『築地活版十三号室』より

【作者名】 著者 : 内田百間
                印刷 : 田中智子(はな工房)
【版式・技法】 文字 : 凸版(活字版印刷)

東京築地活版製造所アンソロジー : 夏目漱石全集と東京築地活版製造所
内田百間「築地活版所十三号室」

夏目漱石(1867年2月9日(慶応3年1月5日)-1916年(大正5)12月9日)は、1916(大正5)年12月9日に持病の胃潰瘍が原因で永眠した。
『漱石全集』は岩波書店が刊行した夏目漱石の著作集。第一次全集は1917(大正6)年-1919(大正8)年にかけて全14巻で刊行された。
活字組版・印刷製本は東京築地活版製造所であった。 後年刊行のものに「普及版」「新輯 定版」などがあるが、1935(昭和10)年の「決定版」は小宮豊隆により原稿を尊重して編纂されたもので、以降の漱石全集の基礎となった。
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『思想』第162号・特輯漱石記念号(昭和10年11月)
「築地活版所十三号室」内田百間

大正六年の漱石全集初版の校正にあたつたのは、森田草平、石原健生、林原耕三の諸氏と私との四人である。
但し第十何巻日記書簡からは小宮豐隆氏が専らその任にあたられた。
私共がその仕事に取りかかつたのは、何年何月からであつたか、はつきりした記憶はないが、毎日みんなの顔を合はした場所は築地活版所の第十三号室である。〔中略〕

十三号室は本館に隣つた川添ひの煉瓦建の二階で、教室ぐらゐの廣さがあつた。その階段の下が職工達の通路になつてゐたので、夕方ぞろぞろと流れる様に帰つて行く職工達の間にふと老人の顔を見附けたり、綺麗な髷のお神さん風の姿に目を惹かれたりして何となく感慨を起こす様な事もあつた。
大正十二年の大地震で十三号室の建物はすつかり潰れて跡方もなくなつた様である。〔後略〕

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(うちだ-ひゃっけん、戦後筆名を百閒と改めた〔読みは同じ〕。1889-1971)

夏目漱石門下の日本の小説家・随筆家。本名は内田榮造。別号百鬼園(ひゃっきえん)。
得体の知れない恐怖感を表現した小説や、独特なユーモアに富んだ随筆などを得意とした。
1910年(明治43)東京帝国大学文科大学入学。文学科独逸文学専攻。
1911年(明治44)療養中の夏目漱石を見舞い門弟となる。小宮豊隆、鈴木三重吉、森田草平らと知り合う。

『夏目漱石全集』(岩波書店)の校閲に従事したのは1917年(大正6)28歳のころ。
夏目漱石没後20年に際して刊行された『思想』第162号・特輯漱石記念号(昭和10年11月)に、「築地活版所十三号室」、「漱石全集は日本人の經典である」をしるしたのは46歳のころ。
また「築地活版所十三号室」には「大正十二年の大地震で十三号室の建物はすつかり潰れて跡方もなくなつた樣である。」とあるが、東京築地活版製造所の本社工場は大正11年のはじめに全面的に取りこわされ、新築がなって、移転の当日に関東大震災に襲われている。此の部分は百間の記憶違いである。
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内田百間による「築地活版所十三号室」の既述と、残された写真とを照合すると、運河沿いの二階角部屋、通路脇の一室が出張校正室につかわれていたことが判明し、大正年代、関東大震災襲来までの東京築地活版製造所の部屋割りの一部があきらかになった。

また東京築地活版製造所はもっぱら活字鋳造所として知られるが、明治初期からさまざまな版式の印刷を手がけており、活字版印刷も『虞美人艸』(夏目金之助〔漱石〕著、春陽堂、明治40年12月29日)をはじめ、岩波書店『漱石全集』14巻を二年ほどでまとめている。

◯ 『虞美人艸』(夏目金之助〔漱石〕著、春陽堂、明治40年12月29日)
菊判 本文606ページ、印刷者・野村宗十郎、印刷所・東京築地活版製造所
基本組版 : 五号明朝活字 一行33字詰め 字間五号四分 一頁13行 行間五号全角
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◯ 『漱石全集』(第五巻 著作権者・夏目純一、漱石全集刊行会、大正7年5月5日)
菊判 本文970ページ、印刷者・大久保秀次郎、印刷所・東京築地活版製造所
基本組版 : 五号明朝活字 一行44字詰め 字間ベタ 一頁14行 行間五号全角
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〔推奨参考図書 『漱石全集物語』(矢口進也著 2016年11月 岩波書店)〕