活版凸凹フェスタ*レポート14

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《活版凸凹フェスタ》は、活字版印刷術(活版、カッパン)にまつわる
さま
ざまを集めたお祭りです。活字をもちいて印刷をおこなう「活
字版印刷術 Typographic Printing」と、 凸版印刷 Letterpress
Printing」を中心に、凸版・凹版・平版・孔版といったさまざ
まな印刷版式の紹介と、版画や製本といった関連
技術も含めた作品と製品を展示し、一部は
販売もおこないます。また各種の
《特別企画》や、タイポグラフィ・
ゼミナールを開催し、参加、
体験型のイベントとして
も位置づけられます。
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【会 期】 2012年5月3日(木・祝)―5月6日(日)
       【会 場】 日展会館 2F イベントスペース
       【主 催】 朗文堂 アダナ・プレス倶楽部

 《ますます深まる台湾の活字業者との交流》
日星鋳字行+台湾活版印刷文化保存協会(台湾)
日星鋳字行は1968年(昭和43年)創業で、台湾で現存する唯一の活字鋳造所、活字印刷版製造所、活字販売店が「日星鋳字行  ニッセイ-チュウジ-コウ」です。
「鋳字」は活字鋳造で「行」はお店の意です。
すなわち日本風にいいますと「日星活字鋳造店」ということになります。

活版凸凹フェスタ2012会場にて。左:日星鋳字行  張 介冠(チョウ-カイカン)代表
右:台湾活版印刷文化保存協会  柯 志杰(カ シケツ)さん──日本語会話が堪能です。

日星鋳字行の Facebook ページ 
http://www.facebook.com/rixingtypefoundry
鋳字人(日星鋳字行プロモーション版映像)
http://www.youtube.com/watch?v=tQ5QV03vMNM

日本とのおおきな違いは、台湾ではいつのころからか、活字店が活字鋳造だけでなく、文選・植字(組版)までの作業をおこない、10数軒あるという活字版印刷所では、印刷・製本作業担当と、役割分担が明確に分かれています。

すなわち、これが本来の「活字版製造所」略して「活版製造所」ということになります。
わが国では「活字鋳造部門」と、それを文選・植字(チョクジ 組版)して、凸版印刷用の版(印刷版・刷版)をつくりあげる「活字版製造部門」が、導入早期から分離し、また「金属活字を中心とした印刷版≒活字版」を「カッパン」と略称してきましたので、「活版製造所」と「活字鋳造所」はもちろん、「おもに活字鋳造所が所有する文字原型によって、活字の母型を製造する部門≒活字母型製造所」などの文意、相違がわかりにくくなっています。

むしろ台湾では、明治最初期のわが国の「東京築地活版製造所」や「江川活版製造所」などの「活版製造所」と同様のワークフローがのこっていると考えたほうが、適切かつわかりやすいかもしれません。
日星鋳字行の主要業務は、活字版を製造・販売することにあり、活字をバラで売ることは付帯業務ということになります。

あるいはカッパン印刷に不馴れなかたは、オフセット平版印刷における印刷版の元、すなわち文字組版業者と、版下をつくる版下業者、それを写真術によって印刷版用のフィルムをつくる写真製版所と、ジンク版などに製版フィルムを焼き付けて、オフセット平版印刷用の印刷版をつくる業者(刷版サッパン、ハンコと略称  おおくは印刷所内で処理)、ロール印刷所の役割分担にちかいワークフローができていると考えると、わかりやすいかもしれません。

日星鋳字行  Websiteより:左は鉛字(活字)・右は銅模(電鋳法活字母型)

日星鋳字行の存在は、数年前にタイポグラフィ学会会員・林昆範(リン-クンファン、台湾在住)さんからの報告があり、一部では良く知られた存在でした。またアダナ・プレス倶楽部とも親しい交流がつづいていました。
その後わが国でも一般雑誌での報道があって、数名の日本の活版愛好家の皆さんが同社を訪問されているようです。

同社には併設して 台湾活版印刷文化保存協会 がおかれています。
台湾活版印刷文化保存協会は、台湾の活版印刷産業を保存するための団体です。同協会は新しいアイデアを次次と提案し、活版印刷文化に新たな生命力を注入し、将来の目標として「台湾活版印刷工芸館」の設立を目指すとしています。

『昔字・惜字・習字』(台湾活版印刷文化保存協会、2011年12月
本文は活字版印刷。巻末附録として、活字清刷りを縮小してオフセット平版印刷とした「日星鋳字行初号楷体縮様稿」があり、400余の字種見本となっている。

当面は日常業務のかたわら、電鋳法(電胎法)による繁字体(わが国の旧漢字に近い)の活字母型の多くが損傷しているために、台湾活版印刷文化保存協会の皆さんが同社に結集し、その修復と、一部に台湾政府の資金援助をうけて、活版印刷関連機器と関連資料の収集に注力されています。

現在の日星鋳字行の活字母型製造技術は、いわゆるベントン彫刻法によるものではなく、コンピュータ 3D ソフトを駆使した斬新な手法によっています。
日本と台湾、とても近くて親しい間柄です。多くの皆さんとの交流をもとめて「活版凸凹フェスタ2012」にはじめて参加されました。

《アダナ・プレス倶楽部 活版カレッジ  アッパークラス、10月に台湾訪問!》
アダナ・プレス倶楽部では、2009年09月27日に、神田・真映社、山梨・安形製作所、横浜・築地活字の3社の協力をえて、【実践活字母型彫刻】 ツアーを実施しました。

この企画は、まず活字の原字をつくり(参加者各自が製作)、それを2インチ角の活字パターン(亜鉛凹版)とし(真映社担当)、それを持参して山梨市まで出かけて「12pt. 活字用の活字母型彫刻」をする(安形製作所指導)というものでした。

《活版凸凹フェスタ2012》築地活字展示風景。
右は築地活字株式会社  平工希一社長。

さらに、できあがった特製「12pt. 活字母型」をもって、横浜・築地活字にでかけて「実践活字鋳造体験会」を実施しました。したがって参加者は「My Favorite Type  12pt.活字」をいまも大切にし、さまざまな製品・作品にもちいたり、愛玩しています。
そしてこのアダナ・プレス倶楽部による「実践活字鋳造体験会」がきっかけとなって、横浜・築地活字では、いまなお定期的に「活版活字 鋳造見学体験会」を開催されています。

ところで……、《活版凸凹フェスタ2012》ですっかり意気投合した日星鋳字行と、アダナ・プレス倶楽部 活版カレッジ アッパークラスのみなさんです。その有志10名ほどが2012年10月に台湾旅行を計画。当然 「My Favorite Type ── わたしのお気に入りの活字」をつくるべく準備に余念がありません。
その報告は、いずれまた。
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《佐々木活字店、ホームページ開設!》
今回の《活版凸凹フェスタ2012》に初参加され、皆さまご存知の有限会社佐々木活字店が、フェースブックにつづいて、このたびホームページを開設されました。

有限会社佐々木活字店 ホームページ
http://sasaki-katsuji.com/
有限会社佐々木活字店 フェースブック
http://www.facebook.com/sasakikatsujiten

有限会社佐々木活字店  会場風景
右)腕組みのかた・佐々木精一社長  左)帽子のかた・佐々木勝之氏。

佐々木活字さんにも、次世代を担うであろうご子息・佐々木勝之氏が入社され、ますます意欲的な展開がはじまりました。活字版印刷機と活字とは、唇歯輔車であり、また車の両輪のような関係にあります。アダナ・プレス倶楽部としてはまことに嬉しく、力強いこと限りありません。