新宿私塾第21期スタート

新宿私塾第21期生の皆さん(2012年09月25日)

 《新宿私塾第21期、スタート》
きびしい残暑がようやくおさまり、爽やかな秋空のもと、いよいよ新宿私塾第21期が開講しました。第21期生はこれまでの塾生諸君とおなじように、とても意欲的で、向上心と個性のつよい若者があつまりました。

まだ修了したばかりの、きわめて活発かつ賑やかだった20期生のむくもりが、あちこちにのこっているような教場でした。
それでも早速、新宿私塾第21期第1回目の講座では、カリキュラム説明につづいて、制限時間各自1分間の自己紹介があって、ここに集まった塾生同士が、年齢も経歴も職場・学校環境もさまざまなことに、塾生諸君はあらためて驚いたようです。これが新宿私塾の魅力のひとつでもあります。

すなわちここには現役の藝術大学・美術大学の学生もいます。もちろんすでに造形者としての職業人も、異分野で活躍する職業人もいます。そして造形者、タイポグラファとして、いっそうの向上をめざすという一点において、こころざしをおなじくする仲間であることを確認します。
ですから30分ほどの短い開塾セレモニーのあいだに、次第に緊張感がゆるみ、笑い声ももれるようになりました。

みじかい開塾式のあとは、いきなり、たくさんの資料が机上にならび、パソコン映像を併用しながら「タイポグラフィをまなぶこととは」の講義がはじまりました。
「形而上の文と、形而下の字」「コミュニティとコミュニケーション」……。一見むずかしそうなテーマも、実例と資料をもとに諄諄ととかれていきました。
新宿私塾では、タイポグラフィにおける「知・技・美」のバランスのよい学習をモットーとしています。それはまた「知に溺れず、技を傲らず、美に耽らず」という自戒をともないます。

新宿私塾第21期は、2012年09月25日にスタートし、2013年03月05日に修了します。この半年のあいだ、塾生の皆さんがおおきな収穫が得られるように、講師陣はもとより、200名ちかくにまでなった「新宿私塾修了生」の皆さんも、精一杯の努力と応援をいたします。

《恒例の 新宿私塾第21期カリキュラムの表紙デザインの紹介》

新宿私塾第21期カリキュラム 表紙(Design : 講師 杉下城司氏) 

新宿私塾第21期カリキュラムの表紙は Emigre Fonts が中心です。新宿私塾では、半年間の受講期間のあいだに、和文活字でも欧文活字でもどちらでもかまわないのですが、できるだけ「My Favorite Type ── わたしのお気に入りの活字書体」を獲得することが勧められます。
もちろん、世上の評価がたかい書体でも、まったく無名の書体でも、「はやり書体」でも一向にかまいません。むしろどんな書体にも避けがたく付着している「長所と短所」をみつけだし「長所をいかし、短所を制御する能力」がとわれます。
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エミグレは米国加州バークレーに本拠をおき、Vander Lans 氏と Zuzana Lico 氏が中心の、ちいさなデザイン・ユニットです。朗文堂とはながらく親しい関係にあります。

設立からしばらくは、アヴァンギャルドな造形が目立ち「カリフォルニア・ニューウェーヴ」の旗手のひとつとされ、大判の『Emigre Magazine』(Emigre は移民の意)を刊行していて、まだ通信環境がととのわない’90年代には、その雑誌とフォント・データーの日本での販売を朗文堂が担っていたこともあります。

近年のエミグレはデジタル・タイプの製造に熱心で、おおきなフォント・ベンダーでは採算面から製造・販売を躊躇しがちな、意欲的な新書体を続続と発表しています。
そんなエミグレがおおきく変貌したきっかけとなった書体が、1996年にZuzana Lico 氏によって製作され、丁寧な解説書をともなって発表された新書体 Mrs Eaves でした。

Mrs Eaves ミセス・イーヴスは、トランジショナル・ローマン「バスカーヴィル」にその範をとったものですが、この豊富なリガチャーをもった Mrs Eaves は、デジタル環境の敷衍によって実現されたもので、文字どおり当時の世界のタイポグラファを驚愕させた書体でした。

その後の Zuzana Lico 氏は「タイポグラフィの冒険者」の立場だけでなく、本格的な活字書体製作者としての評価を獲得しました。「Mrs Eaves」シリーズは、その後も試作をかさねるなかから拡充され Mr Eaves Sans などが次次に発表されました。
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今回の表紙デザインは、新宿私塾講師:杉下城司さんによるものです。
ここには 「Mrs Eaves」にある、213にもおよぶ豊富なリガチャー・キャラクターから選び抜かれた文字セットが駆使されています。
また「Mrs Eaves」と「Mr Eaves Sans」を併用することで、無理や違和感がなく、ローマン体とサンセリフの壁を乗り越える各種の試みがなされています。

また「バスカーヴィル・オーナメント」もわずかながらも使用されています。おたのしみいただけたら幸甚です。
そして新宿私塾第21期生の皆さんが、どのような「My Favorite Type ── わたしのお気に入りの活字書体」を獲得するのか、おおいにたのしみな半年間がはじまりました。