これは実際に書かれていたひとつの「字」です。なんと読みますか ? 回答はタイポグラフィ・ブログロール『花筏』で、のんびりアップ。

上記の「字 ≒ 文字」は、ひとつの「字」です。
漢の字(漢字)というより、国字(わが国でつくられた漢風の字)、もしかしたら個人の創意、あるいはわずかなテライ、もしくは軽い諧謔ユーモアをこめてつくられた「字」かもしれません。
図版でおわかりのように、上部に「毎」をおいて、下部に「水」をおき、ひとつの「字」としたものです。

やっかいなことに、この「字」は、わが国の歴史上で実際に書きしるされており、国宝とされる複数の貴重な文書の上に、なんども登場していて、一部の「集団」からは、いまもとてもおもくみられている「字」です。
ですから簡単に「俗字」「異体字」として片付けるわけにもいかず、原典文書の正確な引用をこころがける歴史学者などは、ほかの字に置きかえられることをいやがります。

1970年代の後半だったでしょうか、まだ写研が開発した簡易文字盤製造「四葉」セットもなかったころのことです。展覧会図録として、この「字」をふくんだ文書の組版依頼がありました。
当時は原始的というか、当意即妙というのか、原字版下を作成して、ネガフィルムをおこし、ガラス板にはさんで写真植字法で組版するという、簡便な方法で対処したことがありました。もう40年ほど前のこととて、その資料も、使用例も手もとにはありません。

もちろん現代の文字組版システムは汎用性にすぐれており、こうした「特殊な字」は、アウトラインをかけるなどして「画像」とすればいいということはわかります。それでも学術論文までもが Website で発表されるという時代にあって、やはりなにかと困った「字」ではあります。
────
先まわりするようですが、デジタル世代のかたが愛用するパソコン上の「文字パレット」や「手書き文字入力」ではでてきません(わたしのばあいは ATOK ですが)。
ちなみにこの「字」のふつうの字体は、人名・常用漢字で、JISでは第一水準の「字」であり、教育漢字としては小学校二年に配当されている、ごくあたりまえの「字」です。

また、一部のかたが漢の字の資料としておもくみる『康煕字典』では、「毎」は部首「母部」で「辰集下 五十七丁」からはじまり、「水」は部首「水部・氵部」で「巳集上 一丁」からはじまります。為念。

現代中国で評価がたかい字書のひとつ『漢語大詞典』(上海辞書出版社)もありますね。これらのおおがかりな資料にもこの「字」は見あたりません。
また、わが国のふつうの『漢和辞書』とされるものは、なんらかの中国資料の読みかえがほとんどですから、当然でてきません。
これらの資料には「標題字」としては、上掲の「字」は掲載されていないようです。もしかして、万がいつ、応用例としてでも、ちいさく紹介があったらごめんなさいです。
────
とかく「漢字」「文字」というと、ほんの一部のかたのようですが、妙にエキセントリックになるふうがみられるのは残念です。
ここではやわらか頭で、トンチをはたらかせて、
「なぁ~んだ、つまらない」。「ナンダョ、簡単じゃないか」
とわらってください。
そしてこの「字」をつくりだした、天性のエンターティナーに、おもいをはせてください。
「回答」というほどのものではありませんが、お答えは タイポグラフィ・ブログロール《花筏》にのんびりとしるしていくつもりです。 
────
やよい三月です。あちこちから梅だよりをいただきますし、ことしの《Viva la 活版 Viva 美唄》の開催予定地、北海道の美唄では、例年にない豪雪だそうです。
また3月は企業や官庁では異動の月です。学生の皆さんは、入学・進級・卒業と、あわただしい毎日でしょうか。
また、この時期は、印刷・出版業界ではふるくから「年度末進行」とされて、繁忙期です。小社、小生も、ひとなみにあわただしい毎日です。
そしてきょうは3月11日、2年前のあの大惨禍がおそった日でもあります。
さまざまなおもいを抱えながら、頭をやわらかくするために、一筆啓上つかまつり候。