なつかしいひと、なつかしいできごとをご紹介いたします。
アダナ・プレス倶楽部ニュース No.002 【アダナ・プレス倶楽部便り】 過去ログより
Adana-21J とジェームズ・モズレーさん
アダナ・プレス倶楽部の設計・製造による、小型活版印刷機「 Adana-21J 」が、工場での検収を終えて、朗文堂/アダナ・プレス倶楽部に搬入されたのは 2006 年 10 月 9 日[月]のことで、この日はちょうど体育の日で祝日でした。
設置を終え、工場のスタッフといっしょに、まずは試運転という最中に来社されたのが、米国にうまれ、ながらく英国のセント・ブライド印刷博物館にあって世界のタイポグラファならだれまがその名を知る、前館長/ジェームズ・モズレーさん(James Mosley 1931 – 2012)でした。
モズレーさんはこのときが初の来日で、ご専門は、書誌学・図書館学・パレオグラフィ(古書体学)・タイポグラフィ・カリグラフィと多岐にわたっています。
またその論文や著作はきわめて多数を数え、この来日の直前にも『 THE NYMPH AND THE GROT 』を著し、サンセリフの誕生(リヴァイヴァル)をあらたな視点から説きおこして注目されました。
こうした世界の印刷界の権威ともいうべきモズレーさんと、夕方から懇談と会食の予定はしていたのですが、なんと約束の時間より 1 時間半もはやく小社に到着されたために、スタッフは大慌てで印刷機を片づけようとしたのですが、オックスフォード大学修士課程の履修中に、活字鋳造所に勤務されたこともあるモズレーさんは、興味深そうに試作機をご覧になり、やがてじつに気軽に、
「どれどれ、わたしにも刷らせてください」
とのことで、「 Adana-21J 」の試作機での印刷に挑戦されました。
つまりこの試作機を使用したのは、スタッフを除けばモズレーさんがはじめてという「珍事」になってしまいました。
ところで、そのモズレーさんの印刷ぶりは、腰のはいった本格的なもので、スタッフ一同感動するやら、感心するやら大忙しでした。
印刷を終えて、モズレーさんは、
「ここのところ、世界の各地で、まだ十分使用できる活版印刷機が廃棄される悲しい現場をたくさんみてきました。ですからおそらく、この小さな活版印刷機は、21 世紀になって誕生した世界でもはじめての活版印刷機でしょう」
と嬉しそうに述べられました。
なにしろテスト用の粗末な用紙しかなく、印圧調整のいとまもなかったのですが、それでもモズレーさんは自ら印刷した 1 枚を丁寧に間紙にはさんで鞄にしまわれ、もう 1 枚にはサインをしてわたしたちに残されていきました。
この一枚は、モズレーさんなきいまいまや、歴史的な記念品となってしまいました。
[ James Mosley さんの略歴 ]
James Willett Moseley (August 4, 1931 – November 16, 2012 行年81)
1953-1956 英国ケンブリッジ大学で修士号を取得
1955 Stevens, Shanks & Co Ltd, で活字鋳造に従事
1956-1958 St Bride Printing Library に司書助手として勤務
1958-2000 St Bride Printing Library に司書・館長として勤務
1964-2000 Reading University, Department of Typography
& GraphicCommunication
Visiting Lecturer 1964-2000
Visiting Professor 2000-
【 ウィキペディア : James Willett Moseley 】