月別アーカイブ: 2014年6月

アメリカの若き活字鋳造工/マーク夫妻アダナ・プレス倶楽部訪問

DSCN4796  <Mark マーク & Christine クリスティーヌご夫妻、アダナ・プレス倶楽部を訪問>
2014年06月25日の夕方、アメリカの若き活字鋳造工/マーク(Mark Sarigianis) & クリスティーヌご夫妻がアダナ・プレス倶楽部を訪問されました。

マークは学生時代にはグラフィックデザインをまなんだそうです。ところがアメリカではすでにグラフィックデザインで食べていくことはとても難しい状況にあり、卒業後、地元のビール会社に就職。そこで資金をためて、三年前からサンフランシスコの活字鋳造所に活字鋳造工として勤務しています。
クリスティーヌはマークとは同郷で、幼児教育のスペシャリストとして勤務する傍ら、趣味として版画製作に取り組んでいるそうです。
夕方から仕事を終えた活版カレッジ修了生の皆さんがつぎつぎとかけつけました。そこでのマーク夫妻との一問一答です。

  • アメリカでは趣味で活字鋳造をしているひとはたくさんいるが、商売として営業している活字鋳造所は、現在三ヵ所のみである。
  • マークとおなじ活字鋳造所で働いていた先輩も、最近独立して、自分で活字鋳造をやっている。将来はマークも活字鋳造所としての独立を目標としている。
  • 活字母型製造が頭痛の種である。アメリカでは活字母型製造所は現在一ヵ所稼動しているが、技術には難点がある。
  • 流行の強い印圧に関しての意見。
    クリスティーヌ : わたしは版画みたいで好き! わたしの場合は活字がどんなに磨滅しても、マークがいくらでも鋳造してくれるから大丈夫 ♡
    マーク : 活版印刷の製作は、自分の好きにやれるのが魅力。でもあんなに強い印圧では活字が全部つぶれてもったいないね。
    カードを印刷するひとは「bite impression」が好きみたいだけど、僕は本を印刷するから「Kiss impression」で印刷しているよ。

活版カレッジ修了生の皆さんがあらかたそろったところで、新宿駅東口の和食のお店に移動。ビール大好きのマークは日本のビールに舌鼓。
ふたりは来日の前に中国を旅してきたそうですが、あちらではスパイシーな中国料理が続いたそうで、辛くない日本料理のやさしさを堪能していました。

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その後、活版カレッジの「飲ュニケーション担当」のY島氏と、アメリカの活版印刷所に留学経験があり、英語が堪能なE子嬢といっしょに、夜の新宿の街へ消えていかれました。
活版印刷とお酒が好きな仲間同士、言語の壁を越えた楽しい一夜となったようです。
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翌日は、活版カレッジ修了生のM像氏と一緒に、飯田橋の凸版印刷博物館、佐々木活字さん、活版アトリエ愛花(あいか)さんを訪問されました。

M像氏は、活版カレッジ終了後に、シルクスクリーンと活版印刷のブランド「DODO ドードー」を立ち上げたばかり。少しずつ活版印刷の受注も増え、佐々木活字さんには、活字の買い足しの際にいつもお世話になっています。
http://thedodo.jp/

「活版アトリエ 愛花(あいか)」さんは、お父様が長年活版印刷所を営んでおられましたが、その後デジタルの印刷方式に移行されて、現在ではお仕事としては使用されなくなっていた活版印刷機材一式を、娘さんが趣味として再活用したいという目的のもとに、活版カレッジを受講されました。
お父様によって長年使いこまれた活版印刷機器は、いまや世代をこえて、「活版アトリエ 愛花」として復活しています。

<以下の写真は M像さんのご提供です>

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マークは特に、日本とアメリカの活字鋳造の違いや共通点、アメリカにくらべてコンパクトな日本製の印刷機などに興味津々。時間を忘れて熱心に説明に聞き入っていました。
マーク夫妻にとって、日本の活版印刷実践者の皆さんとの熱い交流は、多くの収穫と、思い出深いものとなったようです。

台湾日星鑄字行 <活版印刷體驗盒> を製作

DSCN4819《台湾の友人 日星鋳字行が楽しい活版印刷体験盒を製作》
台湾/台北市の活字鋳造所 兼 活字版製造所の日星鋳字行(張 介冠代表)が、すべて板ボール製の活版印刷体験装置を製作しました。名づけて<日星活版体験盒>です。
「盒 ごう」は、わが国でも「飯盒 はんごう」などにもちいられる字で、「ふたもの」の意です。
写真では一見ボルト&ナットがあり、ジャッキやファニチュアらしきものもみえますが、これらは板ボールに印刷物を合紙ゴウシしたもので、すべてが紙製のキットです。
DSCN4824使用に際しては、<日星活版体験盒>キットのほかに、「鉛筆・スケール・カッターナイフ・セロファンテープ」を用意します。インキは油性の活版インキではなく、水性のスタンプインクが少量付属しています。そしてなによりも肝心な活字ですね。これは当然別途購入です。

さっそくアダナ・プレス倶楽部が日星鋳字行で製作した、オリジナルの初号角の活字をもちいて<日星活版体験盒>を体験しました。
できあがりは、写真のとおりです。
しばし、学研の『科学と学習』の付録にワクワクしていた、小学生のころような気分にひたれました。
【参考 : 活版アラカルト/黒滝哲哉『美鋼変幻-たたら製鐵と日本人』 & 日星鋳字行『活字-記憶鉛與火的時代』

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<日星活版体験盒>キットと取り扱い説明書
キット外寸 : 天地 175mm,  左右 233mm,  高さ 34mm,  重量 350g
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『欧文書体百花事典』普及版 刊行記念特別連続講演会 第 3 回 『 Robert Granjon 』 の記録

 DSC07826欧文書体百花その後3F-o 欧文書体その後ポスター

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『欧文書体百花事典』普及版 刊行記念特別連続講演会(全 6 回)
第 3 回  『 Robert Granjon 』
講   師 :  河野 三男
日  時 :  2014年06月22日[日] 午後1時より
会  場 : 東洋美術学校 本部棟302教室
161-0067 東京都新宿区富久町2-6
地図  http://www.to-bi.ac.jp/access/
聴講料 : 各回1,000円(要申込登録)
主  催 : 株式会社 朗 文 堂
後  援 : タイポグラフィ学会
学校法人専門学校 東洋美術学校  産学連携事務局 デザイン研究会アクティ
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たくさんのお客様を迎えて本講演会は終了いたしました。ご来場ありがとうございました。
またいつものとおり、多くの皆さまのご協力をいただきました。ありがとうございました。

イベント告知関連グラフィック製作 : 杉下城司さん
資料製作補助、会場設営、会場運営 : 東洋美術学校 アクティの皆さん
広報活動、会場設営・撤収 : タイポグラフィ学会のみなさん
小型活版印刷機 ADANA 8×5 : 森澤茂氏寄贈品稼動 活版カレッジの皆さん
会場撮影担当 : 木村雅彦さん

次回 第 4 回講座は 2014年08月24日[日]
「装飾は罪悪か ?   花形装飾活字クロニクル」 講師は 白井敬尚さんの担当です。
関連情報は随時<朗文堂ニュース>コーナーにてご紹介いたします。
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<Nutrisco et Extinguo  我ハ育ミ 我ハ滅ボス ── ワークショップでの実演作品に関して>
02 03 01『欧文書体百花事典』普及版 刊行記念特別連続講演会(全 6 回)、第 3 回  『 Robert Granjon 』(講   師 :  河野三男さん)に際して、ご来場の皆さまに実演していただいたカードは、上掲の2008年アダナ・プレス倶楽部グリーティング・カードをもとに構成しています。

「 Nutrisco et Extinguo  我ハ育ミ 我ハ滅ボス 」はフランスでは著名な成句です。この錬金術に源流をもつ火喰蜥蜴サラマンドラは、フランスで活字がおおきく開花した16世紀、活字父型彫刻士クロード・ギャラモンに「王のギリシア文字」を彫刻させたフランソワ一世の紋章であり、いまなおフランス国立印刷所の紋章として使用されているものです

ですから「 Nutrisco et Extinguo 」で検索していただくと、16世紀フランスの興味深い情報に接することができますし、「画像集: Nutrisco et Extinguo 」にもさまざまな紋様が登場してきます。また音楽がお好きのかたは「 Solefald – Nutrisco Et Extinguo 」でもサウンドをお楽しみいただけます。
【参考資料 : フランス国立印刷所 火の精霊サラマンダーと 王のローマン体 ローマン・ドゥ・ロワ/アダナ・プレス倶楽部ニュース 2014. 01. 15 】
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【会員からのお知らせ】 杉本昭生 小型本の世界 Ⅲ

アダナ・プレス倶楽部会員、京都在住の杉本昭生さん製作の小型本(いわゆる豆本)紹介の第三弾です。今回は以下の三冊をご紹介します。

◎ 杉本昭生小型本 第11作 『 漢 詩 抄 』
◎ 杉本昭生小型本 第12作 『 百人一首 抜粋 』
◎ 杉本昭生小型本 第13作 『 死生に関するいくつかの断想 』(小泉八雲)

ともすると小型本の製作者は、なにより小型であることと、装本のおもしろさにこだわりがつよいあまり、そのテキストや、読書のための判別性と可読性を失っていることがみられます。
ところが杉本さんは、もともと読書家ですので、たとえ小型本であろうと、テキストを厳選し、みずからも読み、読者にも読んでもらおうというつよい意志を感じます。
ところで、いつの間にか杉本昭生作品を収納していた容器がいっぱいになっていました。小型本、ちいさいながらもおそるべしですね。

お送りいただくたびに添付されている、杉本昭生さんの味わいのある「製作メモ」から、テキストの一部を抜粋して、写真とともにご紹介します。
なおこの<活版アラカルト>のページは、任意の写真をクリックしていただくと、フォトギャラリーをお楽しみいただけます。
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◎ 杉本昭生小型本 第11作 『 漢 詩 抄 』
今回の製作は『漢詩抄』です。どなたも一度は読んだことがある有名なものばかりです。
この漢詩の一行を書家が書いたように並べてみました。
文章はあちらこちらからの寄せ集めなので、その道に詳しいひとがご覧になったら
不自然さは歴然です。
長い漢詩は一部を割愛しました。ついでにいうなら署名も落款もいい加減です。
かさねてご寛恕のほどを。

4457 4460 4462 4461◎ 杉本昭生小型本 第12作 『 百人一首 抜粋 』
ご存じのように『百人一首』は平安時代から鎌倉時代の歌人、百人の歌を
一首づつ選び集めたもので、それぞれの時代を代表する歌が収められています。
もとより古典の知識があるわけでなく、ほとんどが勝手な解釈による現代文ですし、
おふざけです。
杞憂ながら、試験などでこの現代訳を書くとあなたの印象が悪くなります。
ご注意を。
さっと目を通してさっと忘れる、そんな程度のできだと思っています。
ものすごく暇なときに読んでください。

4466 4467 4469◎ 杉本昭生小型本 第13作 『 死生に関するいくつかの断想 』
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)著/林田清明訳
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、明治23年に来日し、明治37年に
54歳で亡くなるまでの14年間に、日本人の民族性や精神性をテーマに
多くの著作を残しました。
『死生に関するいくつかの断想』は、ハーンが見聞した事実を通して
当時のひとの死生観を考察したものです。
今回は、というか、今回も紆余曲折があり、思いもよらない体裁になりました。
今更ながら本づくりの難しさを実感しています。
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本情報を掲載後、杉本昭生さんから含蓄あるメールをいただきました。
ご了承をいただき、下記にご紹介いたします。

アダナ・プレス倶楽部の皆さま

今回も拙作を掲載していただきありがとうございます。
御社のサイトで紹介されている洗練された作品群に比べると、わたくしの作るものなどはまったくお粗末で、恥ずかしい限りです。

しかし自分以上の事ができるわけでなく、好きな物語や言葉を集め伝えていきたいと思っています。
実際、小さなエピソードに人生が凝縮されている事もあります。
以前報道番組で、団地に住む一人暮らしの老人がインタビューに応えていました。

「ええ、一週間以上誰とも話すことがない時もありますね」
「最近誰かと話したことは?」
「二三日前スーパーで」
「何て」
「袋ください」

東京に行くことがあれば、ぜひご連絡の上またお訪ねしたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

向暑の砌 ご自愛専一で
杉本昭生

【リンク:アダナ・プレス倶楽部ニュース 杉本昭生 小型本の世界Ⅰ】
【リンク:アダナ・プレス倶楽部ニュース 杉本昭生 小型本の世界Ⅱ】

【講演会】 林 昆範 『中国の古典書物』増刷版 刊行記念講演会

Web林講演会

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タイポグラフィ講演会   林 昆範 『中国の古典書物』増刷版 刊行記念講演会
Vignette 02 改訂版林 昆範著『中国の古典書物』は、文字の発生期から印刷術の発明へ。悠久の歴史を有する中国の書物の歴史に、気鋭の研究者が挑んだ力作です。
文字と書物は、どのように誕生し、なにを、どのように伝達してきたのか。
ヴィネット02号  『 中国の古典書物 』 林 昆範
ヴィネット06号  『 元明体と明朝体の形成 』 林 昆範
ヴィネット09号  『 楷書体の源流をさぐる 』  林 昆範
ヴィネット10号   『 開成石経 』 共著/グループ昴 スバル
へとつづいた林 昆範 著作シリーズ、最初の02号『中国の古典書物』の改訂増刷版です。

今回の講演会では、同書の主要項目を再構築するとともに、中国の、そしてわが国の古典書物の配列方式(レイアウト)が、なぜ右起こしの縦組みとなっていったのかを、実際に竹簡・木簡をもちいて書写し、簡冊(竹簡・木簡を紐や糸で綴ったもの。慣用的にカンサク)に再現することでその謎を解明します。

また「五体・五筆」とされる篆書・隷書・真書(楷書)・行書・草書の書き分け(書写)をつうじて、竹簡・木簡から、帛(ハク 絹布)、そして紙の登場へと、被書写媒体の変化をつうじて、古典の書物の形成と書体の変化、そしてその発展の歴史に迫ります。
ですから今回の講演会『中国の古典書物』では、活版インキのにおいにかわり、筆墨の馥郁としたかおりが立ちこめる会場になるとおもわれます。
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タイポグラフィ講演会 『中国の古典書物』増刷版 刊行記念講演会
講  師 : 林 昆 範 リン・クンファン
日  時 : 2014年07月02日[水]18:30 - 20:30(ワークショップを含む)
会  場 : 東洋美術学校 D棟一階 学生ホール
162-0067 東京都新宿区富久町2-6
地図  http://www.to-bi.ac.jp/access/
聴講料 : 1,000円(要申込登録)
主  催 :  株式会社 朗 文 堂
後  援 :  タイポグラフィ学会
学校法人専門学校 東洋美術学校 産学連携事務局 デザイン研究会アクティ
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 講師紹介 : 林 昆範 リン クンファン
1967年、台湾・台北市うまれ。 日本大学博士課程芸術専攻修了 芸術学博士。
台湾・中原大学商業設計学科学科長、銘伝大学助教授。
台湾・中原大学助教授、同大学文化創意研究センター主任。
タイポグラフィ学会会員。
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[講演会申込先]
株式会社 朗文堂@メールまで  robundo@ops.dti.ne.jp
件名「タイポグラフィ講演会 中国の古典書物」 お名前・人数・返信用メールアドレスを明記して、06月30日[月]までにご送信ください。 3 営業日以内にお断りの返信が無い場合は受付完了とさせていただきます。 (今回の会場は狭隘です)。
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株式会社 朗 文 堂   鈴木 孝
160-0022 東京都新宿区新宿2-4-9
電 話 03 – 3352-5070
伝 真 03 -3352-5160
email robundo@ops.dti.ne.jp
http://www.ops.dti.ne.jp/~robundo
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【展覧会】 書道博物館 美しい隷書-中国と日本展 をみる。

 20140404171554707_0001書道博物館企画展
中村不折コレクション 美しい隷書 ──── 中国と日本
【会    期】  2014年04月04日[金]-07月13日[日]
【開館時間】  09時30分-16時30分(入館は閉館の30分前まで)
【休  館  日】   毎週月曜日
【詳     細】  台東区立書道博物館 URL
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隷書とは、篆書を簡略化して日常書体とすることによってうまれました。
篆書は左右対象で、曲線を多く用いた威厳のある形姿でしたが、書くために時間がかかるという不便があったために、徐徐に簡略化がすすみました。
やがて曲線を減らし、水平と垂直線を増やした隷書がもちいられるようになりました。

したがって隷書の「隷」は、篆書に「隷属」するという意からうまれました。
いまだにわが国の辞書の一部には、隷書の紹介を、秦(春秋戦国時代の大国のひとつ。前221-前207年中国史上最初の中央集権国家となる。3世16年で漢の高祖に滅ぼされた)の雲陽のひと 程邈テイバクが、秦朝の公用書体だった小篆の繁雑さを省いてつくったもので、「徒隷」、すなわち卑しい身分のものにも解しやすい漢字書体だとするものがありますが、そろそろ見直しが必要のようです。

隷書が誕生した直後は比較的直線がめだちましたが、次第に波のようなうねりをともなうようになり、歯切れのよい、リズミカルな形姿を獲得していきました。その頂点をむかえたのが漢(前207-後220)の時代です。
漢代初期の隷書は、おおらかで動きのある素朴な趣が主流でしたが、その後期になると、鮮やかで美しい隷書として完成をみるにいたりました。
そしてその隷書で書かれた石碑が数多く建立されたのも漢代の特徴のひとつです。 また20世紀の初頭に、西域の敦煌トンコウやトルファンから出土した文書モンジョからも、肉筆で書かれた隷書が発見されています。

中村不折フセツコレクションには、隷書の名品が数多くあります。不折はみずからの書風を形成していく過程において、これらの隷書からも大いに刺激をうけました。したがって不折流とされる独特の書風には隷書の要素が多分に取り込まれ、表情がゆたかで、あかるく、また装飾性にも富んでいます。
ご観覧をお勧めいたします。 [同館フライヤーより。一部追加改変してご紹介しました]。
【関連情報/ウィキペディア:隷書体

<1899年・明治32年に中村不折が築造した「お蔵」が発見され、同館中庭に復原>
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同館の創立者:中村不折(1866-1943 ウィキペディア:中村不折 中村不折画像集)が1899年(明治32)に住居としていた「下谷区根岸町31番地/現・台東区根岸三丁目12番地」の敷地内に作品や収蔵品の収蔵庫として「お蔵」を建てていたことは、のこされた写真などから知られてはいました。
ところがこのあたりは関東大震災、第二次世界大戦の被害が甚大で、いつのころかその存在が忘れられていました。

発見は偶然だったといいます。2011年(平成23)郷土史家で、根岸子規会の会長:奥村雅夫氏が、道路拡張工事で姿を消す街並みの記録をのこそうとしてこの近辺を撮影していたところ、民家の一隅からこの「お蔵」を発見されました。

中村不折はこの「お蔵」があった「下谷区根岸町31番地/現・台東区根岸三丁目12番地」の住居には、1915年(大正04)に現在の書道博物館のある「台東区根岸二丁目10ー4」に転居するまで居住しており、旧宅の「お蔵」の前で撮影した写真ものこされています。
その写真は図録などでたびたび紹介されましたから、もっとおおきなものとおもっていました。実際には上掲写真のように、大谷石とおもわれる石造りの堅牢な蔵ですが、意外にちいさなものでした。

このようないきさつがあって、「お蔵」は書道博物館に復原されました。この明治期の「お蔵」が復原されたことで、同館敷地内には、明治のお蔵、大正のお蔵、昭和の本館、平成の中村不折記念館が、庭園をとりかこむようにして配置されています。 【書道博物館:明治のお蔵が復原されました

<大正のお蔵で『三体石教』をみる>
三体石教

書道博物館はしばしば訪れるが、企画展示の観覧ととあわせて、「大正のお蔵」とされる、正面からはいって左側の収蔵物をよくみる。ここには『熹平石教キヘイセッケイ』、『三体石教サンタイセッケイ』など、信じられないような貴重な収蔵品がある。
上掲図版は『三体石教』(残石・第五石)とされる。建造は三国時代の魏・正始年間(240-48)である。書道博物館販売の「絵はがき」から紹介した。

この『三体石教』は上から、大篆、小篆、隷書の三書体によって石に刻まれた<石の書物>ともいうべき存在である。大篆の絵図記号のような「文」が(この段階ではまだ字とはいいがたい。むしろ文 ≒ 紋)が、小篆になるとようやく絵図記号を脱して「文 ≒ 紋から 文」らしくなり、隷書にいたって、完全に現代でもよめる「字」になっている。
以下にちいさな勉強会の学習『石の書物-開成石教』(グループ昴スバル 朗文堂、p.34 )-から紹介したい。

三国時代、魏王朝の『三体石教』

統一王朝の漢が滅びたのち、中国はふたたび魏晋南北朝とよばれるながい混乱の時代にはいった。最初に三世紀のはじめに、魏ギ(220-265)、蜀ショク(221-263)、呉ゴ(222-280)が鼎立する「三国時代」があった。
そのうち洛陽にみやこをおいた魏王朝は、日本に関するもっともふるい文書記録『魏志倭人伝』をのこした王朝としてわが国では知られている。

『喜平石教』の建立から68年後、三国時代の魏王朝がみずからの正当性を主張するために、明帝正始02年(241)、洛陽の最高学府「太学タイガク」に『尚書』『春秋』『春秋左氏伝』の三種類の儒教教典をしるした石碑を建立した。
この碑は建立の時代から『正始石教』とも呼ばれるが、むしろ『三体石教』として知られるのは、儒教教典のひとつひとつの「字」が、大篆、小篆、隷書の三書体によってしるされているためである。

そもそも漢王朝の末から魏王朝のはじめにかけては、古典をまなぶ必要がとかれ、今文キンブンとしての隷書ではなく、古文としての大篆や小篆でしるされた、ふるい教典を研究することが盛んであった。
そのために今文としての隷書だけでしるされた、後漢(東漢)の『熹平石教』より、68年ののちに建立された『三体石教』は、古典の教典は古文(ふるい時代のもんじ)であらわすと同時に、中国の殷商王朝(甲骨文・金文)、周王朝(大篆)、秦・前漢王朝(小篆)、前漢・後漢王朝(隷書)など、歴代王朝の歴史を継承する、中国正統王朝としての魏王朝の存在を誇示するものでもあった。

『三体石教』はのちに洛陽をはなれて、西安や案用に移転された。それでもその存在は拓本や文書記録によって知られていたが、黄河の洪水や戦乱に巻きこまれてながらく所在不明となっていた。
それが清王朝の末期に洛陽で『尚書』編の一部の残石が発見され、ついで1957年(昭和32)西安市北大街青年路西段での下水道工事のさいに、偶然地中から大量に残石が発見されておおきな話題となった。
しかしながらこの石碑は1700年以上の流転のあいだに相当破損がすすみ、書写人の名前なども判明しない。現在残石は各所に所蔵されるが、そのほとんどは西安碑林博物館に収蔵されている。
<初出は展覧会案内として 2014年4月7日に投稿したものに加筆修整した>

【会員情報】 笹井祐子さんが専用WebSiteを開設され、意欲的な活動を展開されています。

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笹井祐子 SASAI Yuko 履歴
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1966 東京都生まれ
1990 日本大学藝術学部美術学科卒業
1992 日本大学藝術学部研究所版画コース修了
2010 日本大学海外研究員(平成21年度 メキシコ)
現在、 日本大学藝術学部 准教授
【 新設WebSite : YUKO SASAI   http://yukosasai.jp/ 】

★ 笹井祐子展 赤の声・青の音
星と森の詩美術館.表 星と森の詩美術館.裏星と森の詩美術館
948-0101 新潟県十日町市稲葉1099-1
Tel. 025-752-7202
www.neptune.jstar.ne.jp/~hosimori/
会期 : 06
月13日[金]-07月27日[日] 火曜休館
アーティストトーク 06月28日[土] PM02:00-
<星と森の詩美術館>は、新潟県十日町市にある美術館です。初期からの作品を展示する機会を与えていただきました。1990年から新作油彩200号までの作品、約50点を展示します。遠方ですが足を運んで頂けるとうれしく存じます。

 ★ 笹井祐子展 風の色
ATELIER K Sasai_DM
ATELIER ・K
231−0868  横浜市中区石川町1-6 三甚ビル3 F
Tel. 045-651-9037
会期 : 07月05日[土]-07月20日[日]
● 07月05日[土] PM05 : 00よりオープニングを行います。
横浜石川町にあるギャラリーです。ここのギャラリーでは初個展です。
新作油彩120号6点と、小品を展示いたします。

★ 素 材 考
ギャラリー曉
ギャラリー曉
104-0061 中央区銀座6-13-6 商工聯合会ビル2F
Tel. 03-6264-1683
会期:06
月16日[月]-21日[土]
● 06月16日[月] PM05:00- オープニングを行います。
17人のグループ展に参加します。

★ 版画芸術
no.164 2014夏号
フォーカスアイで 6 ページの特集が掲載されています。
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多方面で大活躍の笹井祐子さんです。
【 新設WebSite : YUKO SASAI   http://yukosasai.jp/ 】もすばらしいものです。
展覧会に、読書に、そしてWebSite訪問に、笹井祐子さんとの邂逅をお楽しみください。

【展覧会】 レオ・レオニ 絵本のしごと 宇都宮美術館

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レ オ・レ オ ニ

絵 本 の し ご と

【 会  場 】   宇都宮美術館
宇都宮市長岡町1077番地 TEL : 028-643-0100
詳細 : http://u-moa.jp
【 会  期 】   2014年07月06日[日]-08月24日[日]
【 休館日 】   毎週月曜日(07月21日[月]は開館。07月22日[火]は休館)
【 観覧料 】   一般 700 円。大学生・高校生 500 円
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レオ・レオニ(Leo Lionni  1910-99)は、オランダで生まれ、イタリアでグラフィック・デザイナーとして活躍したのち、第二次世界大戦のために1939年にアメリカへ移住し、そこではじめて絵本の世界に足を踏み入れました。
わが国でも小学校の教科書にも掲載されている絵本『スイミー』で知られる絵本作家です。

あお と きいろ の紙きれの友情を描いた 『 あおくん と きいろちゃん 』 でデビューしたレオニは、ねずみの 『 フレデリック 』 や、尺取り虫の 『 ひとあしひとあし 』 など、ちいさな主人公が自分らしく生きることをテーマにした温かいストーリーの絵本を数多く制作しました。

水彩、油彩、コラージュなどのさまざまな技法を使って、美しい想像の世界を作りだし、読む人を軽々と空想の旅へ引き込んでしまうレオニは、「色の魔術師」と称されています。
本展では、絵本原画約100点、さらに油彩、彫刻、資料など約30点により、レオニの作品世界を紹介します。
〈宇都宮美術館 フライヤーより抜粋〉
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<レオ・レオニ 絵本のしごと>展は、昨2013年に渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムでも開催されました。
同展を見逃してしまいがっかりしていましたが、幸い宇都宮美術館で巡回展が開催されます。
宇都宮美術館では、同展にあわせて各種の関連イベントも企画しています。
交通が便利になって、新宿からなら乗り換えなしで宇都宮まで到着しますし、帰りがけに、うわさの「宇都宮餃子」は絶品です。ご観覧をおすすめいたします。
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<1996-1997年 レオ・レオニ展  鹿児島市・長島美術館での巡回展の記録から>
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宇都宮美術館での<レオ・レオニ 絵本のしごと>展を紹介したところ、小社スタッフが1996-1997にかけて、板橋区立美術館、高浜市かわら美術館、鹿児島・長島美術館、下関市立美術館と、二年間都合四ヵ所で開催された<レオ・レオーニ展>を鹿児島でみたことがあるそうで、大切にしていた図録をもってきた。
当時は<レオ・レオニ>ではなく、<レオ・レオーニ>と呼んでいたようである。
いつものことながら撮影が順調とはいえず申し訳ないがところですが、ここにその一部をご紹介しました。

長島美術館は鹿児島市内の高台にあり、西洋美術の名品の数数と、鹿児島ゆかりの作家の作品をゆっくりと鑑賞できるぜいたくな美術館です。 また、薩摩焼のコレクションが充実していて、大小様様な薩摩焼が、ところ狭しとならんでいる、〈黒薩摩焼ルーム〉、〈白薩摩焼ルーム〉はじつに圧巻です。

長島美術館は、ことしの<Viva la 活版 薩摩 dé GOANDO>の会場候補にもなっていて、わたくしも下見をかねて長島美術館を訪問しました。
とても私立美術館とはおもえない充実した作品群と、ぜいたくな空間、南国の色鮮やかな植物には感動いたしました。
カフェレストランからは、眼下にひろがる鹿児島市街と、紺碧の錦江湾が一望でき、なによりも火の精霊サラマンダーのように、天高く噴煙を噴きあげる桜島の景観には圧倒されます。 料理はリーズナブルな価格で、地元の食材をいかしたフレンチがいただけます。

残念ですが貸し出し展示場がいくぶん手狭だったために、尚古集成館に決定したということです。
今回は宇都宮美術館の図録とランチもたのしみにして、宇都宮にでかけるつもりです。

デンデン虫のでん助 大脱走 !!

S E A R C H  W A R R A N T

カタツムリ コト 「でん助」
北海道美唄山林うまれ。年齢不詳
趣味/水浴び。 容姿/かわいい。

2014年 冬眠から目覚めたでん助 昨年晩秋、冬眠前のでん助

 《暑さ、寒さも彼岸まで とか……。むかしのひとは、いいことをいいました》
ことしの冬はどうやら「かみ雪」だったようである。「かみ雪」とは信州長野の方言らしい。信州では晩冬のころ、「かみ雪」が降ったから、もうすぐ春だ……などといった。
もともと豪雪地帯とされる、信越国境の信州北部や、北アルプス山麓の信州西部などでは、例年になく、ことしはかえって降雪量が少なかったという。
ところが、かつては台湾坊主といったとおもうが、南方からのしめった低気圧(南岸低気圧)が急速に発達し、北方寒気団と衝突して、例年ほとんど降雪をみない太平洋岸の、おもわぬところで、記録的な豪雪をみた。

ところで弥生 三月がおわり、卯月ウヅキ 四月を経て、皐月サツキ五月となったとおもったら、はやくもカレンダーの半分、水無月ミナヅキ六月となった。
03月06日[木]は、冬ごもりをしていた虫がはいでるという「啓蟄 ケイチツ」の日であった。
まこともって良くしたもので、昨年の11月ころから、いくら室内が騒然としていても、吾関せずと、すっかり冬眠をきめこんでいたカタツムリの「でん助」(北海道美唄山林うまれ。趣味/水浴び。年齢不詳)も、ながい冬眠から醒めて、旺盛な食欲を発揮しはじめた。
03月18日[火]が彼岸の入り、03月21日[金・祝日]は春分の日、すなわち春の彼岸の中日であった。

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いずれにしても、カタツムリの「でん助」は、アダナ・プレス倶楽部の会員、とりわけ<活版カレッジ>の皆さんにかわいがられていた。
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《梅雨入り前の酷暑の五月の末、でん助 大脱走》
脱走の直前まで「でん助」は、趣味の水浴びをたのしんでいた。
それが飼育箱のふたをこじあけて、忽然と姿を消したのは、ノー学部が購入して、活版カレッジの皆さんにも勧めていた<美肌パック-かたつむりの分泌液>のせいではないかと、やつがれはうたがっている。
脱走前のデン助 今日も水遊び 脱走のまえぶれはこれか? 脱走のまえぶれ?なにぶん気はちいさいが、感受性ゆたかな「でん助」である。
また女性とは、こと美肌とか美容の話題になると熱中する悪弊がある。したがって、室内の女性陣の不穏なふんいきと、怪しい会話、
「デンデン虫の分泌物って、お肌にいいらしいわよ~」
と、夢中になっている会話内容と、ときおりチラチラと「でん助」を見やる、ただごとならぬ視線などを敏感に察知して、
「もしかすると自分も分泌液を搾り取られ、<美肌パック-かたつむりの分泌液>の素材にされるのではないか !? 」
と、懼れ カツ 怯えたのではなかろうか。
そしてみんなが帰った夜更にいたり、なにわともあれ体液を絞りとられてはかなわぬと、精一杯の努力をして、飼育箱の扉を無理矢理押しあけ、孤独な大脱走をしたのではないかとおもっている。

デンデン虫の「でん助」は、どこに消えたのか消息不明である。
まさかうまれ故郷の北海道美唄にもどったとはおもえず、好きだった野菜などをあちこちにおいて登場をまっている。いつかまた、冬眠から目覚めたときのように「でん助」が元気にうごきまわる姿をみたいものである。

S E A R C H  W A R R A N T

カタツムリ コト 「でん助」
北海道美唄山林うまれ。年齢不詳
趣味/水浴び。 容姿/かわいい。