朗文堂 アダナ ・ プレス倶楽部会員、京都在住の杉本昭生さん製作の小型本 ( いわゆる豆本 ) 紹介の 第五弾です。 今回のご紹介は以下の三冊です。
1) 西田幾多郎 『 我が子の死 』
2) モーパッサン 『 老嬢物語 』
3) 芥川龍之介 『 尾生の信 』
ともすると小型本の製作者は、なによりも小型であることと、装本のおもしろさにこだわりがつよいあまり、そのテキストが、読書のための 判別性 Legibility と、可読性 Readability を失っていることがみられます。
ところが杉本さんは、もともと読書家ですので、たとえ小型本であろうと、テキストを厳選し、みずからも読み、読者にも読んでもらおうというつよい意志を感じます。
これからゆっくりご覧ください。 なおこのページはスライドショウでもお楽しみいただけます。 1) 西田幾多郎 『 我が子の死 』
西田幾多郎はご存知のように日本を代表する哲学者です。
『 我が子の死 』 は、六歳の愛する娘を亡くした思いを綴った随筆です。(中略)
作品の内容に寄り添う気持ちで作りましたが、相変わらず力不足です。
今回の製作でいちばん感じたのは 『 紙を甘やかしてはいけない 』 ということ。
少しでもツメが甘いと、たちまち仕上がりに影響することを痛感しました。[杉本昭生] 2) モーパッサン 『 老嬢物語 』
ギ ・ ド ・ モーパッサンの作品は人気があるのか、いまも文庫本がたくさん出ている。
ジャンルは、恐怖 ・ 幻想小説が多い。
今回の 『 老嬢物語 』 はそんな恐怖や幻想などとは縁のない話で
作者の幼いころの出来事を思い出すままに語った物である。(中略)
出来上がりは失敗と成功が半ばしてどうともいえない。
たぶんこんな本を作りたかったのだろう。 キャラメルの函のような。
中身をよりわかりやすく伝えたいため、今回はじめて帯をつけた。
仕上がりの不備をごまかすためではないことにしておく。[杉本昭生] 3) 芥川龍之介 『 尾生の信 』
芥川龍之介作 『 尾西の信 』 です。
尾西ビセイ は中国春秋時代 魯のひとの名ですが、
「尾西之信」で古来四字熟語にもなっています。
約束を固く守ることのたとえであり、また融通がきかなくて愚直であることのたとえ。
ここでは女性との約束を守って、命を失った男の話を題材にした短編です。
江守 徹の朗読で聞いたらいいだろうなと思いました。
今回は、ひとり芝居のような設定、
カメラを固定して回し続けているような映像的描写と、
「やさしく海の方へ運んでいった」、
「唯なにか不可思議なものを待ちつづけている」
という文章に惹かれて作りました。(中略)
表装の布が安かったので、丸帙にしてみましたが、紐を結ぶのがちょっと厄介です。
ご一読いただければ幸いです。[杉本 昭生]
【 リンク : アダナ・プレス倶楽部ニュース 杉本昭生 小型本の世界Ⅰ 】
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【 リンク : アダナ・プレス倶楽部ニュース 杉本昭生 小型本の世界Ⅲ 】
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